劇団四季『バケモノの子』オンデマンド配信観劇記~大鹿礼生と菊池俊、命のやり取りに圧倒されて~

観劇レポート

劇団四季『バケモノの子』、もうご覧になりましたか?

「劇場に行く時間が取れない」「家でゆっくり楽しみたい」 そんな方にこそおすすめしたいのが、オンデマンド配信での観劇です。

今回、実際に配信で『バケモノの子』を鑑賞し、思った以上のクオリティの高さでとても楽しむことができました。

  • 配信でも感動できる?
  • キャストの演技はどうだった?
  • 作品に込められたメッセージとは?

これらを徹底レビューします。これから観ようか迷っている方の参考になれば幸いです。

「食わず嫌い」を後悔した。オリジナルミュージカルへの戸惑いを超えて

アニメ監督・細田守の映画を劇団四季がミュージカル化した本作。

現在、劇団四季ライブチャンネル、U-NEXT、Rakuten TVの3媒体にて、12月31日までの期間限定配信が行われている。 私は今回、U-NEXTを利用して鑑賞した。

もともと海外ミュージカルを好む自分にとって、オリジナル作品には今ひとつ食指が動かなかったのだ。

しかし『マンマ・ミーア!』のペッパーですっかり推しになってしまった菊池俊が出演していると知り、観てみることにした。

『バケモノの子』とは(あらすじ)

物語の舞台は、バケモノたちの棲む異世界「渋天街(じゅうてんがい)」。 孤独な人間の少年・蓮は、ひょんなことからこの世界に迷い込み、乱暴者のバケモノ・熊徹の弟子となる。

「九太」という新しい名を与えられた彼は、熊徹とぶつかり合いながらも修行に励み、成長していく。

一方、熊徹のライバルである猪王山の息子・一郎彦もまた、父の背中を追い素晴らしい剣士へと成長していた。しかし、彼には大きな秘密があった……。

親子の絆、そして「自分は何者か」という問い。 もし視聴を迷われている方がいれば、ぜひこの「魂の物語」に触れてほしい。

※ここから先は、物語の核心(ネタバレ)を含みます。

不器用な父たちと、光る才能・大鹿九太

まず、作品全体を通して感じたのは「父と子の不器用な愛」だ。 熊徹を演じるのは、伊藤潤一郎伊藤熊徹は絵に描いたような頑固親父だった。 とにかく強くなりたい九太に剣術もろくに教えない。

短気で、聞く耳も持たない。いわゆる不器用な父親だ。なんだか私自身の父親を思い出してしまった。そう、父親とは往々にして息子の話を聞かないものなのだ。

最初は九太に対して冷たいが、九太のひたむきな努力でだんだんと心を開いていく多々良(川島創)と、つねに九太に対し慈愛の眼差しを向ける百秋坊(味方隆司)。

この二人もとてもいい味を出していた。ある意味、この二人も九太にとって親といえる存在だろう。 

対して、一郎彦の父・猪王山もまた不器用だ。田島亨祐演じる猪王山は、誠実さと威厳を兼ね備えており、いかにも完璧な父親に見える。

だが、実は人間の捨て子であり、自分の本当の子供ではない一郎彦に対して、あろうことか「人間はひ弱なゆえに心に闇を宿らせる」と教え込む。

それは一郎彦に孤独感を与えないための彼なりの優しさなのだが、皮肉にもそれが一郎彦の人間への見下しと、自身のアイデンティティとはなにかという闇を深めていくことになる。

そんな中、主人公の九太(大鹿礼生)の演技が光る。 青年時代の大鹿九太は、等身大で生意気。熊徹との掛け合いは、完全に反抗期の子供と親だ。二郎丸との会話は同年代の同性の友達同士そのものだし、渋谷で出会った楓と交流しているときは、青春らしくフレッシュな表情を見せる。

だが、なんといっても、大鹿九太は歌声も素晴らしい。 とくに、1幕最後のナンバー『新たな旅』は、あまりに純粋で真っ直ぐな歌声に思わず引き込まれた。「あれ、なんか私、大鹿さんの推しになってないか?」と思うほどの魅力があった。

語らずにはいられない。菊池俊演じる一郎彦

そして、菊池俊演じる一郎彦。これは当たり役といっても過言ではない。 ビジュアルの再現度はさすがの一言。完全に一郎彦である。

はっきりした目鼻立ちと中性的な雰囲気。常に口元を覆い隠しており、その表情は読み取れない。だが、その瞳の奥には、どこか儚げで、闇に呑み込まれそうな脆さも持ち合わせている。

「魂の救済」ラスト20分の表情を見逃すな

本作の白眉とも言えるのが、九太と闇に堕ちた一郎彦、終盤の二人の殺陣だ。憎しみに任せて一心不乱に鋭く切りかかる一郎彦の剣。そして、そのすべてを受け止めようとする九太。

それは単なるアクションシーンではない。言葉を介しては分かり合えなかった二人が、身体ごとぶつかり合うことでしか確かめられない「対話」のように見えた。画面越しでも、その剣圧と荒い息遣い、生々しい力のぶつかり合いが伝わってくるような熱量だった。

そして、九太が勝ち、一郎彦が倒れ込む。追い詰められた菊池一郎彦が見せる本音と表情が画面いっぱいに映し出される。これが絶妙だ。

その瞳にあるのは、人間であることが露見し、居場所がなくなってしまう恐れ、そしてそれを隠して生きてきた悲しみだ。これが一郎彦の歌に乗せて語られていき、やがて、人間であるのにも関わらず渋天街で生きている九太に対する憎悪へと変化していく。

だが、その憎しみに対して大鹿九太があのまっすぐな歌声で返すのだ。「俺たち二人は同じ」なんだと。 さらに猪王山とその妻、次郎丸といった家族。そしてアンサンブルのコーラスが一郎彦の闇を癒すように、やさしく包んでいく。

だからこそ、一郎彦が正気に戻った時の、目のこわばりがとれ、哀しみも憎しみも浄化されている表を見て、深いカタルシスがもたらされるのだ。

最後に

『バケモノの子』とは、魂と魂のぶつかり合い。エネルギーの奔流である。それをダイレクトに感じることができるミュージカルであったように思う。

正直、劇団四季のオリジナルミュージカルと侮っていた。劇場へ観に行かなかったことを今更ながら後悔している。 しかし、その生の営みを、オペラグラスで覗くよりもさらにアップで観られるところは、映像配信ならではの特権である。

各配信サイトでの12月31日までの限定配信。これは年末のお供としておすすめしたい。

映像はこちら↓
https://www.shiki.jp/navi/news/renewinfo/037174.html

キャスト
熊徹 伊藤潤一郎
蓮/九太(青年) 大鹿礼生
猪王山 田島亨祐
一郎彦(青年) 菊池 俊
多々良 川島 創
百秋坊 味方隆司
二郎丸(青年) 瀬下喬弘
宗師 増山美保
楓 柴本優澄美
蓮の母 清水智紗子
蓮の父 小出敏英
猪王山の妻 小島由夏
蓮/九太(少年) 馬渕秀太
一郎彦(少年) 髙山大喜
二郎丸(少年) 吉田歩生

[男性アンサンブル]
中村 伝
前田睦貴
宮野 薫
丹下博喜
白倉一成
史門
勝原亮太
土井夏以

[女性アンサンブル]
濵 絢音
渡邊友紀
さかいこのみ
一来多恵
森田江里佳
史門 横田栞乃
原口明子

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