【ネタバレあり・感想】劇団四季ミュージカル『ゴースト&レディ』大阪公演|フローとグレイのクィアな愛と、ラストに明かされる「物語の真実」が生む圧倒的余韻

劇団四季

※この記事にはネタバレが含まれます。

劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』大阪公演。正直、そこまで興味を唆られなかった本作。しかし、世間のあまりにも高い評価を前に、一度は見ておくかと思い、全席完売になる2日前ぐらいに滑り込みで席を確保した。

結論から言おう。これは傑作だ。 観た人なら分かる、あの余韻を簡単には手放せない。感情が動いたからではない。なぜこれほど心を揺さぶるのか、その理由が構造として腑に落ちるからこそだ。

2026年4月10日(金)マチネ公演を鑑賞。

人間讃歌という核

物語の中心にいるのは、フローレンス・ナイチンゲール(フロー)とロンドンのドルーリー・レーン劇場に住まう「シアター・ゴースト」こと灰色の幽霊のグレイ。二人の不思議な絆と、クリミア戦争という過酷な状況の中でも、看護し続けたフローとその看護団たち決して屈しない不屈の精神。シンプルだが、それゆえに力強い人間讃歌が作品のテーマだ。

谷原志音のフローは、原作のフローを思い起こさせるような、力強い眼差しと患者を助けるためならば、なんでもするといった尋常な意思を感じさせる芯の通ったフローだ。

加藤迪のグレイは、原作に比べると荒々しさこそ影を潜めているが、その分、英国紳士のような品格と、フローを背後から守るナイトとしての献身が際立っていた。

二人とも圧倒的な歌唱力で、フローとグレイの感情が伝ってくる。

そして、もう一つの魅力は、そんな2人の恋愛とも友情とも言えるクィアな関係性だ。もちろん2人はキスもするし、性愛の対象と言えるのだろうけれど、だからといって積極的にラブラブするわけでもない。単純な男女の異性愛規範に収めることができない関係性が描かれる。


フローとグレイの愛

グレイとフローの関係は、依存ではなく相互補完だ。グレイはフローを守り、フローはグレイに在り続ける理由を与える。

その集大成が、終盤の4人が交差するクライマックスだ。グレイVSデオン、フローVSジョン・ホール——二つの戦いが同時に交差する。グレイはフローを守るためにデオンと戦い、フローは患者を守るためにジョンと戦う。向いている方向は違う。でも、どちらも「誰かのために戦う」という同じ愛の形だ。

グレイとデオンが相打ちになった瞬間、フローはジョンを殺そうとする。そこにグレイが最後の力で手を止める。手を汚してほしくないという。消えてもなお、フローを守り抜くのが、グレイの最後の愛だった。

それ以上に巧いのは、その物語に「語り手」がいることだ。この物語自体が、幽霊のグレイによって書かれたフローを讃える戯曲であり、観客はその上演を観ていた——というゴーストのモチーフを活かしたメタ構造が最後に明かされる。

フローの不屈の精神を讃える物語が、実はグレイの愛の産物だったという二重性。我々は気づかぬうちにその愛の中にいたのだ。


音楽が表現するテーマ「一人の決意が、人を動かす」

そして、物語を支えるのが、人間讃歌を体現するオーケストラ音楽と、日本語詞の美しさだ。

特に「走る雲を追いかけて」が忘れられない。フローがクリミアへ向かう場面で、恐怖を抱えながらも志を持って戦場へ赴く心情を、オーケストラのメロディーと歌声で表現する。「走る雲」という言葉は陸でも海でも見られるイメージで、イギリスからクリミアまでの長い旅路を一つに包む。「荒ぶる海を越えて」「星の見えない夜でも」——旅の情景が目に浮かぶような歌詞だ。

フローのソロとして始まったこの曲が、やがて看護団全員の合唱へと広がっていく。一人の決意が人を動かす、という物語のテーマが、音楽の構造そのものになっている瞬間だ。

このシーンは演出面も秀逸で、舞台奥に掲げられた地図に、フロー達が辿った英国からクリミアまでの道筋が、赤い光の線となって走っていく。陸路から海路を経てクリミアへと向かっていく旅路を観客に想起させる。

ストーリー、音楽、演出——どれかが突出しているのではなく、すべてが調和している。それが観終わった後の、あの余韻の正体だと思う。


キャストについて

作品のことに触れたので、キャストにも少し。

芝清道のジョン・ホール軍医長官 目的のためなら手段は選ばない冷徹さもありながら、貧乏から成り上がってやる野心家の人間らしさもある。芝が演じると悪人もどこかお茶目さもありいい塩梅だった。

宮田愛のデオン・ド・ボートン 生前に性別を偽って生きた殺し屋の幽霊。男装の麗人としての美しさと、フローを追いかけて殺そうと狂気に満ちたの高笑い。そのギャップがすばらしく、2幕を盛り上げていた。


まもなく幕が下りる

あの感動は偶然ではない。巧みに設計された愛の物語が、我々の心を動かすのだ。

終演あと1ヶ月ほど。もう一度見たいという思いと、この作品は一人でも多くの人に見てほしいと思う気持ちもある。それぐらい魅力的な作品ということだ。どちらにせよ、この余韻をもう少しだけ味わっておきたい。

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